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2022.12.2 12:24

病院前、バス停にて

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去年の春、左膝前十字靭帯断裂と両半月板縫合の大きめな手術を経験した。

入院自体の経験が今までになくしかも1か月程度の入院と、かなり大掛かりなものになった。ひざのけがということもあり入院室は6人のうち4人は60歳前後、もう一人は高校生、加えて僕の6人という、日常の中では絶対に交わらないような人たちと接する機会が多かった。

隣のベッドの一人は妻と20年近く続けている社交ダンスの途中で僕と同じけが、反対の高校生の彼はラグビーの世代別代表に選ばれた矢先、タックルの際に変な方向からのタックルを受けて僕と同じ受傷をした。

社公ダンスの彼は、ひたすらに明るい性格でとにかくよく話す、話す、話す。僕が音楽を聴いていてもイヤホンを取って話してくるくらい、よく話す。でも不思議と嫌いになれない、憎めないような人柄の良さを持ち合わせていた彼だった。初日からすっかり仲良くなると毎晩ふたり車いすで自動販売機まで飲み物を買って待合室で談笑してから寝るような関係となった。入院期間中ネガティブなマインドにならなかったのは自分の性格もあるとは思うが、この彼の存在も大きかったのかもしれない。

ある日、談笑を終えて病室に戻ると反対のベッドから涙の声を押し殺している音が聞こえた。恐る恐る声をかけると高校生の彼は、代表に選ばれた矢先のけがだったこと、この休んでいる間にライバルたちがうまくなっていくことを考えると悔しくてたまらない、その思いがあふれていたようだった。

社交ダンスの彼はそんな彼を間髪入れずに、話をしようと待合室に誘っていた。

いつもみたいに明るい性格で話すのかと思いきや、自身の境遇だったりいままであった苦難、それを乗り越えた出来事、乗り越えらる壁を超えた人だけが前に進める、といつもとは全く違うトーンで相談に乗っていた。ライバルたちはこの怪我の経験はできない。いま体は動かせないが、脳は動かせる。徹底的にラグビーのことに向き合って調べて、動けるようになったときに何をするか、それができれば圧倒的な力になって帰ることができるよ。と。

普段とちがいすぎる剣幕で話す彼に、思わず自分のことのように話を聞いてしまったと同時に、この人は、多くのことをくぐってきたんだな。そのうえで普段の性格や話し方、優しさがあることを痛感した。

僕の考え方を変えようと思ったきっかけの一つにもなった。

退院後、半年近くたったリハビリルームに、聞き覚えのある声があった。

振り向くと彼が周りのリハビリをしている人たちと談笑しながらトレーニングをしていた。相変わらずの人たらしで通り過ぎるいろんな人とあいさつをしたり話をしていた。久しぶりの声をかけると近くの同世代の女性と3人でラーメンを食べることに。いつだってこの無頓着に見える優しさが、周りの人を救っているんだろうな。

リハビリ後の、秋の終わり。

​予定より2本乗り逃し30分遅れの午後の予定も、悪い気がしなかった

​病院前、バス停にて。

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